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横浜地方裁判所川崎支部 昭和48年(ワ)71号 判決

原告 松島智恵子

被告 日本鋼管株式会社

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は、原告に対し、金三、一二七万九、四五四円および別表第一(一)欄記載の各金額につき別表第一(二)欄記載の日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに仮執行宣言

二  被告

主文同旨の判決

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件労働契約

(一) 被告は、肩書地に本社を有する株式会社で、主として鉄鋼の製造・販売の他造船業をも営業の目的とし、川崎市川崎区南渡田、同水江町、横浜市鶴見区に京浜製鉄所、広島県福山市鋼管町に福山製鉄所、横浜市鶴見区末広町に鶴見造船所等の工場を有する他、全国主要都市に営業所、海外数都市に事務所を有している。

(二) 原告は、昭和二一年九月二三日、被告との間で労働契約(以下、「本件労働契約」という。)を締結し、検査工として被告に入社した。原告は、入社後、川崎製鉄所(京浜製鉄所の前身)製鋼部検査課に配属され、パイプの検査業務に従事したが、昭和二八年に労務課厚生係に配属替えとなり食堂業務に従事し、昭和四三年からは厚生課営繕班として社宅や寮の補修業務に従事していた。

2  賃金請求権

(一) 原告は、右のように昭和四三年以降社宅や寮の補修業務に従事していたが、被告は、昭和四七年一一月三〇日、原告の従事していた右業務を訴外エヌ・ケー・グリーンサービス株式会社(以下、「グリーンサービス」という。)に外注委託化することにより右業務がなくなることを理由に、原告に対し解雇通知(以下、「本件解雇」という。)をなし、以後、原告の労務の提供の受領を拒絶している。

(二) 被告の就業規則および労働協約においては、定年を満五五才とし、定年到達後の三月、九月の各月末に退職する旨定められているところ、原告は昭和五五年二月二八日に満五五才となつた。

(三) したがつて、昭和四七年一二月一日以降同五五年三月末日までの間に原告が被告から支払を受けるべき賃金額は、次のとおりである。

(1) 原告が右の間被告から支払を受けるべき月々の給与の額は別表第二記載のとおりである。

右給与については、毎月、前月一日から末日までの分が当月二二日に支払われ、二二日が休日に当るときは、その前日に支払われることになつている。また、端数については、円位未満の端数は四捨五入し、控除金を差引いた支払金額に円位の端数の生ずる場合はこれを一〇円に切り上げ、支払の単位は一〇〇円として端数が五〇〇円以上の場合は一、〇〇〇円との差額を被告が立替払し、端数が五〇〇円未満の場合はこれを翌月に繰り越し、いずれも翌月に清算することになつている。

(2) 原告が右の間被告から支払を受けるべき夏・冬二回の一時金の額は別表第三記載のとおりである。

一時金は、毎年度、夏は遅くとも七月一〇日までに、冬は遅くとも一二月一〇日までに支払われることになつており、端数については一、〇〇〇円未満につき税金に繰り入れることになつている。

(3) 原告が右の間被告から支払を受けるべき生産加給金および暫定加給金は別表第四記載のとおりである。

右加給金は、毎年度二回夏・冬の一時金支払時に六か月分を合わせて支払うことになつている。また、端数については支払単位は一、〇〇〇円とし、一、〇〇〇円に満たない端数は生産加給金、暫定加給金合算のうえ処理することになつている。

(4) 原告は、昭和五五年三月末日定年退職となつたが、原告が支払を受けるべき退職金は金一、二一七万四、〇〇〇円である。

退職金は、退職の日から七日以内に支払われることになつている。

3  結論

よつて、原告は、被告に対し、賃金として前記2(三)(1)ないし(4)の合計額金三、一二七万九、四五四円および別表第一(二)欄記載の右各賃金の支払日の翌日以降各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)(二)の事実は認める。

2  同2(一)の事実は認める。但し、後記三1のとおり本件解雇の日は昭和四七年一二月六日である。

同(二)の事実は認める。

同(三)の冒頭部分は争う。(1)ないし(4)のうち、賃金の支払日、計算方法が主張のとおりであることは認め、その余は争う。

三  抗弁

1  本件解雇

被告は、原告に対し、昭和四七年一一月二八日、原告の従事している業務がなくなることを理由に解雇する旨の通知をし、また、相当額の解雇予告手当を支払つた。但し、本件解雇通知には同年一一月三〇日付で解雇する旨の記載があるが、労使間の協定に基づく苦情処理との関係上、実際は苦情処理期間の末日である同年一二月六日付で原告を解雇した。

2  弁済

被告は、原告に対し、昭和四七年一二月二二日、同年一二月分給与(同月一日から六日までの分)として一万五、三〇六円、暫定加給金(同月六日までの分)として二万六、〇六〇円を支払い、退職金も支払ずみである。

四  抗弁に対する認否

抗弁1、2の事実は認める。

五  再抗弁

被告は、原告の所属する日本鋼管製鉄労働組合連合会(以下、「連合会」という。)との間で締結した労働協約には、解雇をなしうる場合を制限した次の規定が存する(なお、就業規則第六一条に同旨の規定が存する。)。

第四六条 1 会社は、組合員がつぎの各号の一に該当するときは、解雇することができる。

(一)  精神もしくは身体に故障があるか、または虚弱・老衰・疾病のため事務にたえられないとき

(二)  出勤つねならず従業員の職責を果しえないとき

(三)  事故欠勤引続き二カ月以上の者で、解雇を適当と認めたとき

(四)  休職期間満了のとき

(五)  工場閉鎖、業務縮小のため減員の必要を生じたとき

(六)  刑事上の罪を犯し、解雇を適当と認めたとき

(七)  試用期間中の者で会社の採用基準に適合しないとき

2 会社は、前項第五号の適用に当つては、組合と協議する。

3 第一項第一号より第七号の事由により解雇するときは、三〇日間の予告期間を設ける。ただし、必要あるときは、平均賃金三〇日分を支給して予告にかえることがある。

4 試用期間中の者で、採用後一四日未満の者には前項の規定を適用しない。

六  再抗弁に対する認否

認める。

七  再再抗弁

解雇事由の存在―業務縮小による減員の必要

本件解雇は、労働協約四六条一項五号によるものであり、次のとおり、これに該当する事由が存し、かつ、被告は組合との間で同条二項に定める協議を尽している。

1  業務縮小

被告は、昭和四七年九月三〇日、被告京浜製鉄所の庶務課、労務部厚生課、安全課等に属する清掃・衛生・文書集配・所内向け文書の印刷・緑化事業等の業務(以下、「周辺業務」という。)を、被告が自ら一〇〇パーセント資本を投下して新設したグリーンサービスに外注委託化して右業務を廃止する旨の提案を発表し、更に、右業務の従事者に対し人事措置について内示をした後、同年一一月二七日右業務を廃止した。

2  業務縮小および減員の必要性

(一) 被告京浜製鉄所は、新設備・新技術の導入、補助・付帯部門の外注委託化、作業方法の改善による要員の見直しなどあらゆる諸合理化を継続的に実施してきた。しかし、工場設備の老朽化が進み、レイアウトも悪く、また、工場が各地区に分散しているため、労働生産性は全国主要製鉄所の中で最低位にランクされるまでに悪化するとともに、製品の品質向上も期待しえなくなつた。更には、公害防止の面でも、設備配置上の制約や設備構造上の問題から必ずしも十分な措置が講じえない状況にあつた。被告は、右のような事態に対処するには、京浜製鉄所の体質を強化し、工場の安全・環境の整備を図り、また、公害防止策を講じて地域社会に対する責任を果たす必要があるが、そのためには京浜製鉄所を抜本的に作り変える以外方法はないと判断し、昭和四六年六月、原料ヤードとしていた扇島を埋立拡大し、京浜製鉄所の主要工場を右埋立地に集約更新する計画(以下、「扇島計画」という。)の基本構想を策定するに至つた。

(二) ところで、わが国経済は、昭和四五年後半から、戦後最大といわれる大不況に陥り、同四六年夏のドルシヨツクとこれに続く同年一二月の円切上げによつてこの不況は更に長期化・深刻化した。このため、鉄鋼業は一年余に及ぶ粗鋼減産カルテルの実施を余儀なくされ、被告京浜製鉄所は高炉七基のうち三基、コークス炉六炉のうち二炉、焼却炉四炉のうち二炉までも休止せざるを得ない状況に追い込まれ、生産量の大幅な減少、生産コストの急激な上昇、大量の余剰人員の発生等により、経営は圧迫を受け、危機的状況に落ち込んだ。

(三) かかる情勢の中で、被告京浜製鉄所の抜本的な体質改善の不可避性は歴然たるものとなり、被告は短期的な視点からの諸々の施策を講ずるとともに、扇島計画の遂行以外に方策はないとの最終判断に立つてその検討をすすめ右基本構想を最終決定した。そして、扇島計画によれば、扇島への集約更新が完了した後の作業系社員数は、新鋭製鉄所の運営形態を前提とすると、約六、〇〇〇名強にすることが必要とされた。そのため、昭和四七年三月当時の京浜製鉄所の作業系社員数は、約一万四、〇〇〇名であつたが、前記大不況に伴なう主要設備の休廃止等によつて生じた大量の余剰人員の措置をはじめとして、工場稼動の実態に合わせながら、扇島への集約更新が完了する予定の昭和五三年末までに約六、〇〇〇名強までに減員することが避けられない事情にあつた。

(四) ところで、被告は、これまでの合理化にあたつて、補助・付帯部門の業務を専門企業に外注委託化し、それによつて被告が鉄鋼生産に専念できる体制を確立するという方針を一貫して採用してきた。被告京浜製鉄所においても、化工、炉材製造、鋳型製造、運輸、旋削加工、給食、キヤスター製造、軽量形鋼製造、接手管製造等の業務が、これらの事業を専門とする企業へ外注委託化された。

(五) 周辺業務は軽作業であることから、通常業務には従事できない心身故障者や女子作業員をこれに従事させてきた結果、周辺業務に滞留する者が生じ、昭和四七年当時には周辺業務従事者は約三〇〇名の多数に及んだ。この周辺業務は、京浜製鉄所においてすでに外注委託化されてきた前記業務に比べて鉄鋼業との結びつきはより稀薄であるうえ、作業の内容・質が鉄鋼業の通常業務とは著しく異なるために、賃金制度をはじめとする諸制度の適用において周辺業務従事者と通常業務従事者とを一律に扱うにはなじまない面も多分にあつた。更には、周辺業務従事者の勤務能率がとりわけ劣り、勤労意欲も低かつたことから、かねてより、生産現場の従業員の間で、生産現場の合理化を行なう前に周辺業務の合理化に手をつけるべきであるとの声があがつていたが、その声は不況が厳しくなるにつれて強まつてきた。

(六) かかる意味で、周辺業務は外注委託化されてしかるべきものであり、京浜製鉄所の合理化を進める過程の中で幾度かその実施が検討されたのであるが、これに従事する者の多くが心身に故障を有するため、これを外注委託化した場合、他の職務への転活用あるいは他への就職も困難であることから、その実施が延ばされていた。しかし、前記状況の中で、京浜製鉄所全般にわたる徹底した合理化が不可避なものとなり、経費の削減、作業の廃止・簡素化による要員の見直し等をはじめとするあらゆる合理化を実施するとともに、周辺業務の取扱いについても、そこで従事する人達の事情を考慮し慎重に検討を重ねた結果、周辺業務の効率化と周辺業務従事者の雇用の確保および生活の安定とを両立させる最善の方法として、周辺業務を専門的に行なう新会社を設立し、ここに周辺業務を委託化することにした。このような措置を決定するに当つては、通常業務に従事できない多数の余剰者を便宜的に周辺業務に配置するあり方は簡素な組織と少数の人員を基本前提とするこれからの製鉄所においては維持できないこと、近時緑化・ゴミ焼却・ビルメンテナンス・印刷・清掃等の作業も専門化される傾向にあること、周辺業務を独立事業として専業化を図ることが業務の効率化、人材の有効活用に役立つこと、新規事業への進出が図れること等の事情も十分に考慮された。

3  組合との協議ならびに解雇基準および業務縮小に伴なう措置について

(一) 被告は、昭和四七年三月、連合会に周辺業務の整理集中化と専門的運営を含む「扇島集約更新に至るまでの合理化計画」を申入れ、同年五月末まで団体交渉を重ねた結果、連合会は、同年六月一三日、扇島計画とこれに伴なう京浜製鉄所再編整備の方針に基本的に協力することを約するとともに、その一環である合理化について細部条件を付して同意し、被告との間で協定(扇島建設にかかわる京浜製鉄所の合理化に関する協定書・以下、「扇島建設合理化協定」という。)を締結した。被告と連合会とが確認した内容は、被告の申入れた内容に加え連合会の主張を取入れ、労働条件の大幅な改善を図つたものとなり、具体的な要員合理化内容は、被告と日本鋼管京浜製鉄所労働組合(以下、「京浜組合」という。)とで協議することとなつた。また、合理化の余剰人員の措置については「(1)定年退職者・自己都合退職者の補充、(2)福山製鉄所への配転、(3)重工・船舶部門への移籍、(4)関連会社等への就労斡旋、(5)鋼管グループ企業への社外派遣、(6)周辺業務の整理集中化と専門的運営については、新会社設立という前提もあり、ある程度の時間を要することから、会社が準備を完了し成案を得た時点で別途協議する。」こととした。

(二) 被告は、連合会との右交渉経過を受けて、昭和四七年九月三〇日、京浜組合に周辺業務の合理化について申入れ、同年一〇月下旬まで労使交渉を重ねた結果、同年一一月一三日、被告と京浜組合との間に次の協定(京浜製鉄所における周辺業務の合理化に関する協定書・以下、「周辺業務合理化協定」という。)が締結された。

(1) 周辺業務の外注委託化に伴ない次の人事措置をとる。

ア、公傷病のため周辺業務に従事している者については、会社において雇用を継続する。

イ、従業員の殉職者の身替りとして採用されている者については、会社において雇用を継続する。

ウ、通常業務への転活用が可能な者については、通常業務に復帰させる。

エ、現在復帰訓練中でその期間が一年六ケ月以内の者については、会社において雇用を継続し、一年六ケ月までの残存月数を限度として復帰訓練を行なう。

オ、昭和四八年三月末定年退職者については、会社において雇用を継続する。

カ、前(ア)ないし(オ)の該当者以外の者については、労働協約四六条一項五号により解雇する。ただし、新会社への就労を希望するものについては、新会社での就労が困難な者を除いて新会社において採用する。

キ、前(ア)ないし(エ)の該当者で会社を退職し、新会社への就労を希望する者については、新会社において採用する。

(2) 退職金の算定にあたつては、定年退職支給率を適用するほか、三〇万ないし一〇〇万円の特別加算金を支給する。

(3) 新会社への移籍者については、会社との賃金格差および就業日数差を賃金に換算したものを各三ケ年分支給する。

(4) 新会社の労働条件については、会社の当初提案を増額改訂する。

(5) 会社は新会社の存続を保証する。

(三) そこで被告は、労働協約四六条一項五号により、原告を解雇したものである。

八  再再抗弁に対する認否

1  再再抗弁の冒頭は争う。

2  同1の事実は認める。

3  同2は争う。

次のとおり、被告には周辺業務の縮小ないし廃止および減員の必要性は存しなかつた。

(一) そもそも、雇主が労働者を解雇する場合には、その解雇をやむを得ざるものとする正当な理由の存在が必要であると解すべきである。わが国の雇用関係は終身雇用制であり、これと一体をなしている年功賃金制のもとで、労働者は若年のうちは自らの労働力の再生産すら覚束ないほどの低賃金でも我慢し、将来に期待をもつて働いている。新設備導入にあたり、より多くの利潤を求める資本の論理からすれば、高令者を若年労働者にかえ、余剰労働力を整理したいと考えるが、排除される労働者にとつてこのような整理は生活の破綻を意味するから、新鋭設備の完成がただちに解雇につながるということは到底容認できないところであり、整理解雇の必要性の判断は厳格に解すべきである。

(二) 扇島計画は、水江・福山製鉄所等の建設に向けて稼動し続け老朽化した京浜製鉄所の設備が更新期に入つたので、これを新鋭設備に取替える計画であつて、景気の動向にかかわらず実行しなければならなかつたものである。現に、その計画は昭和四五年後半から同四七年にかけての不況到来前になされている。被告は、景気が後退中であつた昭和四七年三月、連合会に対し、「扇島集約更新に至るまでの合理化計画」を提案し、京浜製鉄所で約六、五〇〇人の人員削減を申し出た。しかし、扇島の埋立工事はその前年の一二月に始まつたにすぎず、扇島の製鉄所の稼動開始は昭和五一年であつたから、この時期には設備更新による余剰人員が生じていたわけではなく、右の提案は不況の到来を機に先制的に整理解雇を実施しようとしたものである。仮に、その時被告の主張するとおり余剰人員があつたとしても、それは不況期における稼動率の低下による一時的な余剰にすぎなかつた。右のように、被告の扇島計画およびこれに伴なう整理解雇は、被告が国内外の企業競争力の拡充と経営の効率的運営を図り、より高い利潤を追及するための方策であつた。その後、被告は新しい労働者を採用し、業績も多少の波を伴ないつつ一貫して上昇拡大している。

(三) (1) 被告の周辺業務は、扇島計画が行なわれたとしても、その業務自体はなくなるものでも縮小されるものでもなく、被告の事業の運営にとつて必要不可欠の業務である。周辺業務を自ら一〇〇パーセント資本を投下して設立したグリーンサービスへ外注委託化するという被告の措置は、周辺業務も基幹業務と同じく被告の業務遂行にとつて欠かすことのできない業務であり、右業務を従前と同じく存続させうるにもかかわらず、経費を節減するため右業務に従事していた被告従業員を一旦解雇し、被告が自ら設立し全面的にその支配力を及ぼすグリーンサービスの従業員として以前とほとんど同じ業務に従事させようとするものである。したがつて、被告にとつて周辺業務自体がなくなつたわけでなく、また縮小したわけでもないから、事業の廃止ないし縮小が存在しないというべきである。

(2) また、被告は、原告を労働協約四六条一項五号に基づいて解雇したと主張するが、被告の周辺業務のグリーンサービスへの移行は、右規定の「工場閉鎖・業務縮小のため減員の必要を生じたとき」に該当しないものである。すなわち、次の事情からすれば、被告の周辺業務のグリーンサービスへの移行は、外注委託化ではなく、同一企業内の業務の編成替、移管にすぎず、いわゆる「事業部制」と実質的にかわらないからである。

〈1〉 グリーンサービスは被告が一〇〇パーセント出資して設立した会社であり、かつ、その経営方針と存続は被告が自由に決定しうるという特殊な会社である。

〈2〉 右会社の役員は、例えば初代社長は被告の専務取締役であつた折井日向氏であり、以後の社長もすべて被告の役員か系列会社の役員等が就任している。

〈3〉 右会社の所在地は、被告京浜製鉄所の構内にあり、同製鉄所から賃借する形をとつている。

〈4〉 右会社の業務内容も設立以後若干手を広げているが、主たる業務は被告の従来からの周辺業務である。

〈5〉 右会社に移籍した労働者にとつて、出勤する詰所は被告勤務当時と全く同じで、作業現場も被告構内であり、仕事内容も以前と変わらない。

〈6〉 右会社の基本的な経営方針はすべて被告が掌握し系統的支配をしている。現に被告は合理化をめぐる労使交渉の際、組合に対し「新会社は当社が全額出資するいわゆる系列会社であり、当面は京浜製鉄所の周辺業務を一括担当することを業務範囲とする。新会社の存続は会社として保証する。」旨説明している。

(3) 被告と原告との間の雇用関係についてみれば、グリーンサービスは実態上その法人格を否認されるべきである。すなわち、

〈1〉 前記のとおり、グリーンサービスは、単に被告の経費削減ないし人員整理を容易にするための手段として、その一部門について法人格を取得したにすぎず、その実体においては被告から独立した別会社ではなく、単に被告の一部にしかすぎないものである。したがつて、被告の周辺業務がグリーンサービスの担当業務とされても、下請でも外注でもなく、被告の一部門に別法人の外被がかぶされたにすぎない。被告の業務は少しも縮小されたものではなく、依然として被告の一部門として存在しているのである。

〈2〉 周辺業務に従事していた労働者の被告からの退職と、グリーンサービスへの雇用ということは、実体は同一であるにもかかわらず雇用主を法律上変更することにより、労働条件の切下げと被告の利潤の追及を図るために、法技術を弄したものである。雇用者たる会社がその従業員に対して労働条件の一方的切下げができるかという形で問題が提出されれば、何人も法的に平等な契約当事者の一方的意思によつてその変更はできないというであろう。被告は、「グリーンサービスの設立」とそれへの「業務移行」という外形をこしらえ、労働者との関係では、「被告からの退職」と「グリーンサービスへの入社」という手続をとり、労働条件の一方的切下げを図つたものである。

(四) 右のとおり、周辺業務のグリーンサービスへの外注委託化は事業の縮小に該当しないというべきであるが、仮に、右に該当するとしても、被告が周辺業務を他企業または子会社に委託する必要は存しない。すなわち、被告はこれまでも周辺業務を直接遂行してきたし、扇島移転後もそれを継続して行なうことができないとか、著しく不利になるとかの事態は予想されない。被告に周辺業務委託の必要性があつたとすれば、その方が低経費でより多くの利潤をあげる可能性を高めることであるが、整理解雇における業務縮小の必要性とは、企業の存亡が問題となる等の事態を避けるための必要性でなければならないと解すべきであるから、右被告の必要性では足りないことは言うまでもない。

4  同3の事実は認める。

しかし、周辺業務合理化協定は無効であり、これに従つた解雇も無効というべきである。すなわち、周辺業務合理化協定の内容は、周辺業務のグリーンサービスへの移行により、労働者は仕事内容、仕事場所は従来と何ら変わりないにも拘らず解雇され、被告の下請会社に就職を強要され、そこで生活保護世帯なみの賃金をはじめとする低い労働条件を押しつけられること、身体上の理由により周辺業務に従事していたものにとつては厳しい労働条件の中で生産に励み、その中で健康を損ねて周辺業務に配転されついには解雇されて下請会社へ就職を強要させられること、女子労働者は被告の作業現場からの女子しめ出し政策の下にその意思に反して周辺業務に配転され再び被告の一方的な事情により解雇されて下請会社への就職を強要されることを意味するものである。しかしながら、労働組合は個々の労働者の労働条件を向上させるための組織であり、労働組合が個々の労働者の解雇を内容とする協定を会社と締結できないことは労働組合の目的自体からして明白である。仮に、労働組合が右のような内容の協定を締結したとしても、その協定は個々の労働契約の中に含まれる退職の自由、契約継続の権利部分について法律的効力は有しないし、個々の労働者を拘束できるものではない。そのような協定に意味があるとすれば、京浜組合が個々の労働者の解雇に反対しないという意向の表明にしかすぎない。

九  再再再抗弁

1  移籍命令拒否による解雇無効

(一) 被告とグリーンサービスとは形式的には別会社であるが、前記のとおり実質的には同一会社と評価すべき程度の密接な関連を有するものである。被告は周辺業務をグリーンサービスへ移行するにあたり、原告に対し、京浜組合との前記協定を示しながら、被告を退職しグリーンサービスに入社すること、すなわち「移籍」を勧告した。これは形の上では勧告であつたが拒否すれば解雇することを明示した強制的なもの、すなわち命令であつた。

(二) しかし、被告の就業規則、労働協約において、被告が労働者に対し移籍を命じうるとする根拠規定は存しない。また、被告がその一部門を別法人化することが企業の経営政策上有利であるとしてこれを実行しても、従前からそこで働く労働者は新しく設立された会社に移籍されることを受忍すべき義務がないことは当然である。したがつて、原告は、本件労働契約上、移籍勧告に応じなければならない義務はないから、原告の同意なき限り被告は原告をグリーンサービスに移籍することを命ずることはできない。

(三) また、グリーンサービスの労働者の仕事内容は、被告の周辺業務の仕事内容と同一であるが、被告労働者が右会社へ移籍した場合、賃金が一人平均月額一万六、九〇五円低下するなど労働条件が極めて低くなる。ところが、労働者は職を失ないたくなければ、グリーンサービスの移籍の勧告を受け容れざるを得ない。しかし、会社による労働者の労働条件の一方的切下げは許されないところ、同一会社の事業部制採用と同視すべき移籍に際し労働条件を一方的に切下げることが許されないことは同様といわなければならない。

2  解雇権の濫用

本件解雇は、次のとおり、被告の信義誠実義務違反ないしは解雇権の濫用であつて無効である。

(一) 女性差別

本件解雇は、次のとおり、原告が女性であることを理由とする差別に基づくものであり、性別による差別待遇の禁止を規定する憲法一四条、個々の労働条件についていわれなき身分差別を禁止する労働基準法三条、四条の趣旨に違反し無効である。

(1) 被告と京浜組合との間で締結された「周辺業務合理化協定」においては、対象者の人事措置について、通常業務に復帰させるとの規定がおかれ、男子従業員については現に通常業務への復帰が認められた。ところが、女子従業員については、右協定の附帯覚書において、通常業務への転活用は行わない旨明規し、原告に対し右協定にそつて他の職場への転活用を認めず解雇した。

(2) しかし、被告には、交替勤務を行なつていない常昼職場、倉庫、保全、検査等の職場等労働基準法の女子労働者保護の規定に抵触しない業務も多く存し、現場事務の仕事も存するから、女子を右のような業務につかせることも可能であるし、また一般事務への転用も可能である。被告は、対象となつた女子労働者の適性、能力を何ら調査することなく、右業務に就労する能力がないと決めつけ、転用を図らなかつた。

(3) また、かつて、被告においては、右業務の他様々な業務に女子労働者が就労していた。被告は、戦後しばらくの間は、女子も現場業務に採用していたが、その後被告の一方的な都合で女子の職場を縮小し、これを男子に置き換えあるいは下請化していた。原告も検査工として主体部門に採用され、検査から補助部門である食堂に配転され、食堂の下請化により寮の補修業務を行なう厚生課営繕班に配転になり、今回周辺業務の合理化の対象とされた。右のとおり被告は、女性の職場を被告の一方的都合で縮小し、利潤追及のための三交替制を動かしがたい前提として、女性を職場から排除しようとしているものである。

(4) ところで、被告は、周辺業務のグリーンサービスへの移行に伴なう人事措置において、周辺業務従事者のうち、公傷病者、身替わり採用者、昭和四八年三月末定年退職者、復帰訓練者については、雇用を継続し、新会社に派遣するという措置をとつたが、女子従業員を含む他の従業員についても、このような形の人事措置をとることが可能であつた。

(5) 更に、被告においては、種々の面において女性を差別しており、本件解雇は、その差別が最も顕著に表われたものである。例えば、被告においては、事務職について採用時の社員資格が男女で異なること、そのため賃金格差を生じ定期昇給の率が異なることにより年数を経るにつれ格差が拡大すること、主要職社員の登用について女子は上司の推薦が得にくく、極めて昇進が難しい等の女性差別がみられる。

(6) 被告と京浜組合との間で締結された「周辺業務合理化協定」において、女子従業員の通常業務への転活用は行なわないこととする旨協議確認しているが、右事情に照らすと何らの合理性はなく、右条項は憲法一四条、労働基準法三条、四条に違反しており法律的効力は認められない。したがつて、被告が原告に行なわせる業務が存在するにもかかわらず女子にのみ転活用を認めないことは、何ら合理的理由がなく、不当に女性を差別するものであるから、本件解雇は無効である。

(二) 永年勤続者である原告に対する本件解雇は、公序良俗違反であり、無効である。

原告は、昭和二一年以来、二六年間人生の最良の部分を被告への勤務に費した。被告は、原告の入社当時、原告らに対し、真面目に勤務すれば後で楽になる等と言つて協力を求めたが、原告ら女性労働者はこれに応じて懸命に働いてきており、また、男性の労働の余裕ができたのちには、食堂勤務、寮の管理業務などへの配転にも応じてきた。一生を会社の業務遂行のために働きとおしてきた原告に対し、被告が一層経営効率を上げるためだけの合理化実施にあたり、解雇をもつて報いるというのは、使い古された機械を廃棄するという取扱いと全く同様な非人道的なやり方である。原告は、被告において二六年間一貫して働き、四〇代後半の年令に達し、他に新しい職場を得る機会も極めて乏しいという条件にあつたものであり、被告が、合理化に伴なう移籍、労働条件の一方的切下げに応じないことを理由に解雇することは、公序良俗に反し、明白な解雇権の濫用である。

一〇  再再再抗弁に対する認否

1  再再再抗弁1は争う。

(一) 被告は、原告に移籍を命じたことはなく、原告が移籍を拒否したから解雇したわけではない。本件解雇は、周辺業務の外注委託化による業務縮小によるものであり、解雇対象者はいずれも退職金・特別加算金を受領し、被告との労働関係を消滅させたあと、希望者は新会社に採用されたものである。

(二) なお、グリーンサービスは、形式的にも実質的にも被告から独立した別法人であり、周辺業務の外注委託化による縮小が労働協約四六条一項五号の「業務縮小」に該当することは明らかである。

(1) 前記のとおり、被告がグリーンサービスを設立したのは、扇島建設に伴なう合理化の中で、まず周辺業務従事者の就労の場を確保し、生活の安定が図れるようにすることを考えたものであるが、同時に、当面は被告の周辺業務を専門的に行なうとしても、将来的には社会的に専業化が進んでいる緑化・ゴミ焼却・ビルメンテナンス・産業廃棄物処理等今日の社会が要請する事業に大きく発展し、それによつて従業員の生活の安定向上が一層確保されるようになることを念願してのものであつた。

(2) 被告は、周辺業務を既存の専門企業に外注委託化することも可能であつたが、周辺業務者の事情を考えてグリーンサービスを設立したものである。鉄鋼業のみならずあらゆる産業において専業化体制が進んでいるが、鉄鋼業を例にとれば、原料・製品搬送、設備補修、素材・製品の疵取りの精整、製品梱包等鉄鋼業に欠かすことのできない業務がすべて専業化され、それぞれ別会社に委ねられている。右のような別会社が、鉄鋼会社の業務遂行にとつて不可欠の業務を行なうからといつて当該鉄鋼会社の一部門であるといえないことは明らかである。

(3) グリーンサービスは、独自の経営方針に基づき、独立採算の下で、独自に業務計画を企画決定し、自らの責任において業務運営を行なつており、形式的にも実質的にも被告から完全に独立した法人である。すなわち、グリーンサービスは、設立後今日まで二度定款を改訂して、資本金を増額し、事業内容の拡大、業務取引先の拡大を図り、更には、専門的技能保有者を管理職に採用するなど、独自の組織・人事計画に基づき実際の業務運営を行なつている。財政・経理の面では、グリーンサービスは、その業務取引の中心が被告の京浜製鉄所であるという立地条件から、社屋・詰所等は京浜製鉄所から賃借りしているが、他の設備・機械・資材等の財産は自己所有し、独自の財務管理を行なつており、また、計算書類の作成等の経理処理も自ら行なつているところである。更に、賃金・労働時間・休日・休暇等の労働条件も、グリーンサービスがその労働組合との交渉を行なつて独自に決定している。

(4) 被告は、京浜組合との間で締結した周辺業務合理化協定において「公傷病者等会社に雇用を継続する者以外の者については、労働協約四六条一項五号により解雇する。但し、新会社への就労を希望する者については、新会社での就労が困難な者を除いては新会社において採用する。」旨合意確認し、これに基づいて前記人事措置を実施した。グリーンサービスに雇用された人達は、被告の周辺業務の合理化の事情を理解し、被告を退職し、新たにグリーンサービスと雇用契約を締結したのである。したがつて、周辺業務の合理化に伴なう人事措置は、雇用主を外形上変更させたというものでもなく、被告との雇用関係が存続する中で労働条件が切下げられたというものでもない。なお、被告はこれらの人達に退職金の支給をはじめ雇用関係が終了したことに伴なう措置を完全に実施している。

(5) ところで、法人格否認の法理は、否認さるべき法人に対し、債権や雇用契約上の地位を有する者について、当該法人が全く形骸にすぎないとか、あるいは法律を回避するために法人格が濫用された場合に、その背後にある実質的な責任主体に対し、請求権などを確保させることが公正であるという観点から確立された理論である。このように、右法理は、あらゆる関係において当該法人の法人格が否認されるという趣旨ではなく、あくまでも否認される法人とこれに対し債権を有する者ならびに右法人の実質的責任主体との相関関係において、否認される法人の債権者を保護し、実質的責任主体に対しその請求権を認めることが適正・公平であるという観点から相対的に適用されるべき法理論にすぎない。したがつて、グリーンサービスと全く関係のない原告は被告を相手として、グリーンサービスについて法人格否認の法理の適用を主張する立場にはない。

また、仮に、原告がグリーンサービスについて法人格否認の主張をなしうるとしても、現行法上親会社が子会社を設立し、それぞれ独立した法人格として企業活動を営むことは法的に何ら禁化されていないばかりか、産業界においてもしばしば見られるところであり、前記のとおり、グリーンサービスは業務運営の実態等から見て十分独立性をもち、また、グリーンサービスの設立は、何ら法律の適用を回避するためでなく、むしろ解雇対象者の雇用と生活の安定を図ることを目的としたものであるから、その法人格を否認される理由は全く存しないと言わざるを得ない。

2  同2(一)は争う。

本件解雇は、原告が女性であるがゆえの差別に基づくものではない。

(一) 鉄鋼業の現場作業のほとんどは深夜勤務を伴なう交替勤務であり、工程関係、保全関係あるいは生産工場の一部に存する常昼職場の業務についても、肉体負荷の高い仕事や、危険有害な仕事など労働基準法の女子保護のための規定に抵触する内容を有しているとともに、多くの職場では交替勤務との人員互換を行なつているなどのために女子作業員が適合できる職場は見出し難い。また、これらの業務は、概して技能・熟練を必要とし、本来補助的・付帯的業務に従事すべく採用され、長年このような業務あるいは周辺業務に従事してきた女子作業員にはよくなしうるところではない。

(二) 事務職業務は、近代高度化・復雑化・専門化してきているため、単純・平易な業務をとり出して一人分の業務として設定することは不可能である。また、本来補助的・附帯的業務に従事させる目的で採用され、長年このような業務に従事し、しかも平均年令四八才という高令の女子作業員にとつては、右のような事務職業を遂行することは能力的に困難である。したがつて、原告を含む女子作業員を今日の事務職に従事できないとしたことには十分の合理性があるのである。なお、男子作業員についても、女子作業員の場合と同様に事務職業務への転活用を行なつていない。

(三) 被告において、終戦直後、女子作業員が現場作業に従事していたことがあるが、女子作業員は補助的・付帯的業務に従事していたにすぎなかつた。しかし、右のように補助的付帯的業務といえども、その業務は鉄鋼生産と直結するため本来的には交替制が基本であり、女子は労働基準法との関係で就業の制約があるため、女子作業員を男子作業員に切り替える方針とし、被告においては、昭和三六年に炉材業務を廃止して以来、現場作業に従事する女子作業員はいなくなつている。

(四) 右のとおり、被告には女子に転活用可能な職場がなかつたものであるが、仮に、女子に就労可能な作業を見出し得たとしても、前記のとおり老朽化した京浜製鉄所から扇島への再編整備の過程において、職場異動の必然化する京浜製鉄所の整理事情からは、その職務を長期に保証し得なかつた。

(五) 周辺業務合理化協定が締結されるに至る経緯は前記のとおりであるが、右協定の付帯覚書において、女子作業員を通常業務へ転活用しないとしたのは、前記のとおり鉄鋼業の現場作業の実態や京浜製鉄所から扇島への集約更新に向けて職場異動、大巾な人員削減が避けられない人事事情から、女子に適合する職場を見出し難かつたからである。右協定は、本文において、本件周辺業務合理化に伴なう人事措置として、公傷病者、身替り採用者等を除いて通常業務に転活用できない者は、男女を問わず労働協約四六条一項五号によつて解雇することにしている。付帯覚書は、右内容に従つて女子作業員については鉄鋼業の現場作業の実態や京浜製鉄所の整員事情等から転活用できないことを確認し、その取扱いを明らかにしたものである。このように、右協定には、女子であることに基づく差別は一切存せず、これが憲法一四条や労働基準法三条、四条に違反するものでないことは明らかである。

(六) また、被告は、周辺業務合理化協定の成立後、昭和四七年一一月二〇日から、該当者各人に協定内容にのつとつて退職・移籍に際しての条件、諸手続等の説明を行ない、同月二四日以降各人に人事措置区分の内示を、同月二七日にその正式発表を行なつた。合理化対象者の総数三二二名についての最終的な人事措置の内訳は、会社で雇用を継続する者(公傷病者、身替り採用者、四八年三月末定年退職者、復帰訓練者)五二名(うち女子一八名)、通常業務へ復帰する者三名、新会社へ移籍する者一九八名(うち女子五五名)、退職する者六八名(うち女子一二名)、新会社へ移籍せず退職もしない者一名(原告)であつた。ところで、被告は内示に際して、各人の中からその内容に不満あるいは疑義が生じた場合、すなわち苦情が生じた場合を配慮して、労使の協議によつて解決を図るべく一〇日間の苦情処理期間を設けて処理にあたることにした。しかし、原告は、被告からの人事措置区分の内示に対して、ただ解雇を拒否する旨の主張を繰り返すのみであつた。そこで、被告は、やむなく前記労使協定に従つて、原告に対し本件解雇通知をなしたものである。

3  同2(二)は争う。

原告の主張は、労働契約を終身解雇できない契約として解するもので、現行法上とうてい認め難いし、企業は解雇権の存在を全く否定され、経営上著しい支障を被ることを余儀なくされるものであり、失当と言わざるを得ない。なるほど、被告は永年勤続した従業員を解雇することを避けたいと考えるが、企業の存続発展は多数の従業員、株主、債権者のためにも社会的責務であるといわざるを得ない。そのためには、右の者に対し、時に解雇措置にでることがやむを得ない場合もあるのであつて、解雇理由の存するかぎり、公序良俗違反といえないことは明らかである。

第三証拠〈省略〉

理由

一  労働契約の成立等

請求原因1(一)(二)(本件労働契約)は、当事者間に争いがない。

二  解雇の意思表示

成立に争いのない乙第四、五、八号証、原告本人尋問の結果に弁論の全趣旨を合わせると、被告は昭和四七年一一月二八日原告に対し同月三〇日付で解雇する旨の通知をしたが(この点については当事者間に争いがない。)、苦情処理期間の末日である同年一二月六日、原告に対し、三〇日分の平均賃金である八万〇、九〇〇円を提供し(但し、原告が受領を拒絶したため、被告は、同月二六日、横浜地方法務局川崎支局に右金額を供託した。)、同月六日付で原告を解雇する旨の意思表示をしたことが認められる。

三  解雇の意思表示の効力

1  再抗弁(解雇制限規定の存在)は、当事者間に争いがない。

そうすると、労働協約四六条一項各号所定の解雇事由にあたる事実が存在していたといえる場合でない限り解雇の効力が生じたとはいえない。

2  しかしながら、被告は、本件解雇は、原告の従事していた周辺業務が廃止され、労働協約四六条一項五号に定める解雇事由である工場閉鎖・業務縮小のため減員の必要が生じたので、同条二項に定める組合との協議を尽したうえなされたものであるから、解雇の意思表示の効力は生じた旨主張する。

(一)  そこで、まず被告が本件解雇をするに至るまでの事実関係をみてみることにする。

成立に争いのない甲第一号証の一ないし二二、第二、二〇号証、第二七号証の一ないし三、第三七号証の一ないし四、第四八、六八、七一、七二号証、乙第七、八、一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証、第一八号証の一、二、第一九、二一、二二号証、第二四号証、証人西村元の証言により真正に成立したと認められる乙第二三号証、証人大高陽(但し、後記採用しない部分を除く。)、同木原敏昭(同)、同新井好雄(同)、同西村元、同稲葉勉、同鈴木千佳子の各証言、原告本人尋問の結果(但し、後記採用しない部分を除く。)ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

(1) 被告は、わが国の基幹産業である鉄鋼業の大手企業として、第二次大戦後、他の大手鉄鋼企業と歩調を合わせて三次にわたる経営合理化を図つてきた。昭和二六年ころから同三〇年ころにかけての第一次合理化では、政府のいわゆる傾斜生産方式政策の方針に呼応し、戦災によつて荒廃した熔鉱炉、圧延機等の設備を修復・改造して、戦前の水準にまで生産量を復帰させ、更に厚板、パイプ関係を中心に増産を図つた。昭和三一年ころから同三五年ころにかけての第二次合理化では、わが国の重機械工業の発展等に伴なう需要増大に応えるため、生産量の拡大・品質の均質化を目指す機械化による技術革新が中心課題とされ、設備の拡張、更には新立地においての新鋭工場の建設が図られたが、被告も、昭和三四年水江の埋立地に新製鉄所(水江製鉄所)を建設した。昭和三六年以降の第三次合理化では、国内外での需要の飛躍的増加に対応するため、新立地での大容量の設備の建設と第二次合理化で始められた自動化が推進されたが、被告も福山市に敷地一、〇〇〇万平方メートルの新製鉄所の建設に着手し、殊に昭和四〇年以降右新製鉄所の建設に重点を注ぎ、最も合理的な工場配置と最新鋭の設備を有するといわれる年間粗鋼生産量一、六〇〇万トンの福山製鉄所を完成した。

(2) ところで、鉄鋼企業は、従来、鉄の製造の他、酸素・コークス等の製造、運輸、梱包等の鉄の製造に関連する業務も各企業内で行なつていたが、第三次合理化期になると、わが国の大手鉄鋼企業は、合理化対策の一つとして、経営の効率化を図るため高炉から圧延までの鉄鋼生産に専業し、鉄鋼生産に直接関係しない補助的・付帯的な業務部門を中心に他の専門企業に外注委託化するという方針をとるようになつた。右方針が採用されたのは、補助的・付帯的部門においても技術革新が著しく進展しているものの、鉄鋼生産に主眼を置く鉄鋼会社では、右補助的・付帯的部門への設備投資、研究開発投資が主力部門に比して手薄になつて、専門企業の行なう技術革新に立遅れがちであり、経営管理の点からも、補助的・付帯的部門の従業員の勤労意欲が上がらず、人事も停滞しがちであると考えられたことによるものである。

そして、被告京浜製鉄所においても、右のような経営的判断のもとに、昭和四〇年(但し、京浜製鉄所へ統合前)運輸業務を日栄運輸株式会社へ外注化したのをはじめとして、同四一年保全業務(C種・修理部門のうち機械加工)を鋼管機械株式会社へ、同四三年給食業務を富士商事株式会社へ、同四四年接手管製造業務を鋼管継手株式会社へ、キヤスター製造業務を旭硝子株式会社等へ、それぞれ外注委託化してきた。

(3) 被告は、昭和四三年四月、それまで京浜地区に分立していた川崎・鶴見・水江三製鉄所の組織重複を排し、統一的有機的な管理を図るため、これを京浜製鉄所として統合した。しかし、京浜製鉄所は、管理組織としては一本化したものの、三製鉄所の集合体として設備的には新旧混在の状態であつて、経営効率が低く、昭和四三年当時作業系従業員が約一万八、〇〇〇人もいたのにその粗鋼生産量は年間約五五〇万トンに過ぎず、わが国大手鉄鋼企業の製鉄工場のうち下位の実績しかあげることができなかつた。ちなみに、被告の最新鋭製鉄工場である福山製鉄所は、右当時、約三、六〇〇名の作業系従業員で年間四五〇万トンの粗鋼を生産し、昭和四五年ころには、京浜製鉄所と福山製鉄所とでは、銑鉄一トン当りの値段が約二、五〇〇円も異なる状態であつた。

かくて、被告は、京浜製鉄所には、公害防除対策の社会的要請が強まつてきているにもかかわらず、設備の古さ、レイアウト、公害防除設備用地などの面から対策に限界のあること、販売上必要な流通基地・加工設備などのための用地の不足が甚しいこと、生産設備のうち特に鉄鋼設備のレイアウトおよび内容の陳腐化が進んでいること、原料受入れに際し今後増大する大型船受入れ上、設備・用地に制約があることが京浜運河の過密化とも合わせて問題視されること等の種々の問題点が存し、設備更新の遅れが生産性・品質・採算の面に大きな影響を与えており、抜本的な施策が必要であると判断した。

(4) 被告は、昭和四三年以降、問題点についての検討を重ねていたが、京浜地区に執着する従業員の感情、大量配転の困難性、関係下請会社(下請約八〇社、納入業者を含めると約四〇〇社)対策の面からも合理化策として新設すべき工場は京浜地区とすることが望ましいこと、関東地方は被告の営業基盤が永年にわたり培われてきたところであること、新設工場の建設地が京浜地区であれば京浜製鉄所に既に建設されている一部の新鋭圧延工場を利用できること等の点を考慮し、昭和四六年末ころには、京浜地区の扇島の埋立地に大型新鋭工場を建設する計画(扇島計画)を立案するに至つた。

扇島計画は、扇島にある被告の原料センターの前面海域を埋立て合計約一五六万坪の用地を確保したうえ、昭和五一年秋までに第一製銑・第一製鋼・分塊・厚板の各設備を、その後熱延設備を、同五三年末には第二製銑・第二製鋼・冷延等の設備を各建設し、工事完成時には六〇〇万トン体制とすること、これに対応して京浜製鉄所の既存の鉄鋼設備を順次廃止し、圧延設備も鋼管製造設備・鋼板表面処理設備を除いてほぼ全面的に更新するという内容のものであつた。

扇島計画が実現すれば、福山製鉄所に偏在している被告の生産体制が是正されることになり、扇島地区には製銑・製鋼・分塊・鋼板・圧延の各ラインが、既存地区には鋼管圧延・二、三次加工・流通基地が各整備されて、種々の付帯施設・環境施設と相俟つて効率的な設備配置が形成され、単位設備の能力発揮が期待されるとともに、搬送費が低減され、自動化・省力化・計算制御化等を折り込んだ新鋭設備の整然たる配置が、管理運営のあり方を根本的に刷新・合理化する前提条件を整備することになるという効果を齎すことが期待された。

(5) しかし、被告京浜製鉄所の旧設備と扇島に建設される新設備とでは生産量当りの所要人数に格段の差があるうえ、扇島計画の立案着手後、昭和四五年ころから鉄鋼不況が到来し、京浜製鉄所は生産削減のため剰員が生じることになつたこと、扇島計画が川崎市との公害防止協定等により生産規模を六〇〇万トンに抑制せざるを得なかつたこと等の事情が生じたため、扇島計画遂行にあたつての人事調整措置が極めて大きな課題となつた。すなわち、昭和四三年度の京浜製鉄所の在籍者が約一万七、五〇〇名であつたところ、扇島工場完成時(昭和五三年)の必要人員は約六、〇〇〇ないし七、〇〇〇名と見込まれるため、定年退職者等の自然減があつたとしても、なお、比較的短期間に大巾な人員削減措置を講ずることが不可避であると判断された。

(6) ところで、被告では、ビル・室内・浴場等の清掃、文書集配、印刷、構内整備、緑化、ボイラー運転等、鉄鋼の生産業務に直接関連しない、従業員に対するサービス、職場環境整備等の付帯的業務は周辺業務と総称されたが、その業務内容は、浴場の清掃を除きいずれも常昼勤務で、肉体的負担の少ない軽作業であり、庶務部庶務課、労務部厚生課・安全課等が所轄していた。

鶴見・水江・川崎の三製鉄所が統合されて京浜製鉄所となる以前の昭和二七、八年ころから、各所において、傷病後の従業員が原職に復帰できるようになるまでの間、これらの者を保護班等の名の下に右業務に従事させる措置がとられていたが、前記三製鉄所が京浜製鉄所に統合された際、右業務は右各課の所轄下におかれた。

(7) ところで、被告の生産部門は、業務内容から必要人員を割出し、在籍人員を管理するという要員査定・管理がなされていた。しかし、周辺業務は、前記のとおり、業務内容が鉄鋼生産に直接関連しない付帯的業務内容であるうえ、復帰訓練者用の職場という役割もあつたため、周辺業務従事者の大部分は、病弱、あるいは心身障害のある男子作業員であり、また女子作業員もそのほとんどが従来の職場が廃止あるいは縮小されたため配転されてきたものであつた。そのため、各人の適性・能力が相当異なることもあつて、要員管理に親しまず、むしろ、在籍者に応じた作業を見つけるという運営(在籍管理)がなされていた。更に、男子作業員にとつて、周辺業務は本来通常業務に復帰するまでの一時的な職務であつたが、周辺業務に配置された者が職場に復帰する場合、常昼勤務や軽作業を希望する者が多く、また健康管理医の就業制限指示がなされることもあつて、三交替制を基本とする生産部門への復帰は困難で、周辺業務に長く滞留する者が少なくなく、昭和四三年当時、男子作業員の平均滞留年数は八、九年にも及んでいた。

(8) 被告京浜製鉄所は、前記のとおり、設備の更新、組織の集約化、補助的・付帯的部門の外注委託化等の合理化措置を講じてきたが、周辺業務については、周辺業務従事者の配属に至るまでの事情も考え、抜本的合理化策を実施することを見合わせていた。

しかし、前記のとおり、扇島計画が具体化し、同計画見通しによれば約八、〇〇〇名にも及ぶ余剰予定人員が生じることが明らかとなつたので、被告は、右事態に対処するためには、京浜製鉄所における要員査定・人員配置の抜本的改革および全社的な人事措置等の対策が必要となり、その一環として周辺業務の合理化も必要であると判断した。

そこで、被告は、扇島工場完成に至るまでに予想される剰員に対する人事措置について、次のような構想・方針をたてた。

扇島計画実施にあたつて、京浜製鉄所の操業の段階的縮減等は、全社的見地から見た生産の効率的運用の必要性から扇島工場への生産の集中と相前後して行なうのではなく、相当早い時期から行ない、そのうえで扇島工場に引き継ぐことにする。ところで、扇島工場完成時(六〇〇万トン体制)の要員は、約六、〇〇〇名程度と予想されるが、昭和四七年三月現在の京浜製鉄所の人員約一万五、〇〇〇名を技術を継承しつつ、如何にして約六、〇〇〇名にまで減員するのかが課題である。加えて、昭和四六年以降も不況カルテル実施にもかかわらず鉄鋼不況が続き、京浜製鉄所は、三六〇万トンにまで生産を削減せざるを得なかつたが、なお五〇〇万トン体制時の要員をかかえており、この点からも思い切つた体質改善が必要不可決である。そのため、人員削減策として、要員合理化によつて約二、五〇〇ないし三、〇〇〇名、周辺業務従事者約五〇〇名、減産体制時の余剰人員一、〇〇〇名、事務技術系社員約三〇〇名を削減する措置が必要と判断される。

しかし、今回の余剰人員の削減措置は、従来の合理化に伴なうものと異なり、余剰の発生が短時日でかつ多数とならざるを得ないこと、扇島計画と全社的生産の運用計画との関連から、京浜製鉄所の要員の縮減時期が相当早期になることも予想されること、長期にわたる余剰人員の保有は極めて困難であること、しかし右計画によると、期末要員と在籍者との対比による余剰人員が、昭和四七年度末に一、八〇〇名、同四八年度末には三、二五〇名、同四九年度末には二、四五〇名、更に同五三年度末には二、〇〇〇名と計算されること等の状況から思い切つた対策をとるほかなく、部門内(福山製鉄所への異動)は勿論、部門を超え(重工・船舶部門への移籍)、企業の枠を越え(関連会社への転籍・退職)、広域的対策を図る必要がある。そして、具体的対策としては、〈1〉福山製鉄所への追加異動、〈2〉京浜製鉄所における採用の全面的中止、〈3〉定年退職者、自己都合退職者の補充、〈4〉重工・船舶部門の採用の縮小と、京浜製鉄所の余剰人員の移籍、〈5〉鋼管グループへの派遺調整、〈6〉被告関連会社、福山製鉄所の系列企業、その他一般企業への就業・斡旋、〈7〉周辺業務の整理集中化と専門的運営、〈8〉協力会社業務の吸収調整、〈9〉待命、一時帰休等の措置を考えた。

(9) 被告は、右構想・方針に基づき、昭和四七年三月、連合会に交渉を申入れ、以後、扇島計画に伴なう人事措置について七、八回にわたつて交渉を重ね、各職場について減員の必要を詳細に検討したうえ、同年六月一三日「扇島建設合理化協定」を締結し、余剰人員の削減措置として、〈1〉定年退職者、自己都合退職者の補充、〈2〉福山製鉄所への配転、〈3〉重工・船舶部門への移籍(希望者の中から選考)、〈4〉関連会社への就労斡旋(原則として四五才以上の者で、関連会社等への就労を希望する者)、〈5〉鋼管グループ企業への社外派遣を行なうこととし、これに伴なつて人事異動対象者に種々の補償的措置をとることとした。以後、被告は、右協定に従い、大規模な人事異動を実施した。

周辺業務については、被告と連合会との交渉の中で、周辺業務の整理集中化について交渉が重ねられたが、右協定締結に際しては、人事措置案が定められず、被告が成案を得次第、別途協議することとした。

(10) ところで、昭和四七年当時、周辺業務には合計三二二名の監督作業系社員が従事していた。そのうち、男子作業員二三六名は、いずれも鉄鋼生産の主体部門(以下、「通常業務」ともいう。)に採用配属されたが、その後傷病、心身障害のため主体部門の業務を行なうことができなくなつて配転されてきたものであり、昭和四七年当時には、胃腸・循環器系障害、神経・精神性疾患を有する者が多かつた。また、女子作業員八六名は、一部の者を除き、採用当初に配属された炉材、検査、食堂等の監督作業系の業務が廃止・縮小されたため配転されてきたものであつた。

右のように、周辺業務に従事する男子作業員の大部分は病弱あるいは心身障害者で、三交替制を基本とする通常業務勤務には耐えられないとして配転されてきたものであり、また、女子作業員の大部分は、従前の業務(検査・食堂などの監督作業系業務)が廃止・縮小されたため、配転されてきたもので、業務内容も、常昼勤務で、清掃等の軽作業が大部分であり、被告の主力部門の業務とは関連性が薄く、異質であつた。

そのため、周辺業務に従事していた男子作業員の健康が回復し、健康管理医が昼間作業従事を許可したとしても、鉄鋼業の性質上三交替勤務を要する職場が多く大部分の職場が四組三交替制を採用していた被告の通常業務において、永続的に常昼勤務できる作業を見出すことは極めて困難であつた。

ところで、京浜製鉄所の前身である川崎・鶴見製鉄所では、常昼で軽作業の存した炉材、検査、工程部門等の監督作業系従業員として女子を採用していたこともあつたが、寮母等の仕事のために採用した臨時社員の若干名を除き、鶴見製鉄所においては遅くとも昭和二六年ころから、川崎製鉄所においては昭和三八年ころからそれぞれ女子作業員の採用を中止した。

そして、周辺業務に従事していた女子作業員の大部分は、炉材、分析、検査等の生産補助部門の監督作業系業務から配転されてきた者であつたが、それは、おおよそ次のような事情によるものであつた。

川崎工場の検査課では、精整工場で圧延されたパイプの瑕を検査する作業に女子作業員が従事していたが、生産量の増大に伴ない、交替勤務、超過勤務に制約のある女子の就業には不適当となつてきたため、昭和三〇年ころ、他の業務へ配転した。

また、原料・製品の成分分析等をなす分析業務にも女子作業員が従事しており、主に分析器材の洗浄等の補助的作業を行なつていたが、昭和三三、四年ころから、分析方法は従来の湿式分析(薬品分析)から機器分析に変化したため、器具洗浄の作業が減少し、また、機器分析の技能、ローテーシヨンの問題もあり、女子作業員は昭和四六年ころまでに周辺業務へ順次配転された。

珪石の煉瓦等を製造する炉材成型の作業にも、女子作業員が従事していたが、熔鉱炉に関する技術革新に伴ない、煉瓦製造技術が高度化してきたこともあつて、昭和三五、六年ころ、右業務は専門企業に外注委託化されるに至つたため、女子作業員は周辺業務に配転された。

さらに、食堂部門には、女子作業員が従事していたが、京浜製鉄所統合前に、食堂部門が専門企業に外注委託化されたため、女子作業員は周辺業務に配転された。

(11) 被告は、右のような周辺業務および周辺業務従事者の事情から、前記連合会との「扇島建設合理化協定」を受けて、周辺業務に関する人事措置について、概略次のような検討をした。

i まず、男子作業員については、通常業務復帰が可能か否かについて検討し、可能と判断される者については、本人の意向を聞いたうえで職場復帰を図る方針をたてた。そして、男子作業員の健康状態について、病状カルテをもとに医師の判定を求め、また、日常の勤務状況、心身障害の勤務への影響を作業管理部署の長から事情聴取(ヒアリング)し、その結果を総合して、通常業務復帰可能者の抽出をすることにした。

ii 次に、女子作業員については、他の適当な職場に配置転換できるか否か、女子に就労可能と思われる職種について個々に検討を加えた。

しかし、前記のとおり、鉄鋼業の生産部門および補助部門の通常業務は交替勤務が非常に多く、常昼勤務の女子を含めてのローテーシヨンの設定が極めて困難であること、そもそも女子作業員が周辺業務へ配転されてきた経緯が前記のようなものであること、有害業務が多いこと、女子作業員に可能な何らかの常昼勤務が存したとしても、扇島計画を遂行する過程の中で、右のような業務を永続的に保証することができないこと等の事情から、女子作業員の通常業務への転活用(配転)は困難であると判断した。

すなわち、常昼勤務である資材倉庫業務は、品目についての知識・予備品管理等の熟練を要する職場であるうえ、納品管理の厳格化(例えば、コツクシステムの導入)と機械化により、業務内容に変化を生じた結果、職場に剰員を生じている状態であり、原料部門は、原料関係の専門的知識を要するうえ、生産部門との連絡の必要から交替制勤務がとられており、検査部門は、製品検査については自主検査システムがとられている他、検査技術が高度化・専門化しており、材料検査については、機械化が進むとともに生産ラインの中に検査業務を取入れているため交替制がとられており、また工程部門には、常昼部門が存するけれども、生産工程計画を立て、これを修正していく、極めて高度専門的な職種であり、工場の工程実績を把握する部門には交替制がとられている等、従前、女子作業員が従事していたことのある職場は、事情が変化し、常昼業務も著しく高度化・技術化され、周辺業務に永らく従事してきた女子作業員の配転は困難と判断された。

更に、被告は、女子作業員の事務技術職への転活用も検討した。しかし、事務技術職も、扇島計画の中では、余剰気味で、約八〇名の女子社員の減員を図つている折であつたうえ、仕事の内容も事務機器を使つて行なう、熟練を要する仕事が多く、周辺業務に長く従事していた女子作業員(平均年令約四七、八才)を転活用することは、事務能率、人事配置の見地から適当でないと判断した。

(12) 被告は、右のように配置転換の可能性について具体的な検討を加えた結果、周辺業務に従事する者のうち、通常業務へ復帰可能な男子作業員については復帰転用を図り、その余の者については配置転換が困難と判断し、この者を労働協約四六条第一項五号により解雇し、新しく設立するグリーンサービスへの就職斡旋を図る方針を固めた。そこで、被告は、昭和四七年一〇月五日資本の一〇〇パーセントを出資してグリーンサービスを設立し、周辺業務を右会社に外注委託化し、傷病者等については別途復帰訓練制度を創設することを前提に、周辺業務合理化に関し京浜組合と交渉を重ね、同年一一月一三日「周辺業務合理化協定」を締結し、周辺業務の廃止、グリーンサービスへの外注委託化を確認するとともに、外注委託化に伴なう周辺業務従事者の人事措置については、次のとおりとする旨合意した。

〈1〉 公傷病のために周辺業務に従事している者については、会社において雇用を継続する。

〈2〉 従業員の殉職者の身替りとして採用されている者については、会社において雇用を継続する。

〈3〉 通常業務への転活用が可能な者については、通常業務に復帰させる。

〈4〉 現在復帰訓練中で、その期間が一年六か月以内の者については、会社において雇用を継続し、一年六か月までの残存月数を限度として復帰訓練を行なう。

〈5〉 昭和四八年三月末定年退職者については、会社において雇用を継続する。

〈6〉 前〈1〉ないし〈5〉の該当者以外の者については、労働協約四六条一項五号により解雇する。但し、新会社への就労を希望する者については、新会社での就労が困難な者を除いて、新会社において採用する。

〈7〉 前〈1〉ないし〈4〉の該当者で会社を退職し新会社への就労を希望する者については、新会社において採用する。

被告は、右協定に基づいて昭和四七年一一月二七日限りで周辺業務を廃止し、これに伴なう人事措置を実施し、右業務をグリーンサービスに外注委託化することとした。組合も配置転換の可能性を検討したが、結局は、大筋において被告の方針を認め、前記「周辺業務合理化協定」を締結したものである。

そして、被告は、右協定において前記人事措置基準を定め、更に付帯覚書で「(1)通常業務への復帰者の復帰職場は、元籍を基本に本人の適性・整員事情等を勘案して定める。(2)女子作業員の通常業務への転活用については、女子に恒常的に適合する職場を確保することが、交替勤務・有害業務等労働基準法の女子作業員保護のための規定に抵触することの多い鉄鋼業の作業の実態と、扇島に向けての職場異動の必然化する京浜製鉄所の整員事情等から困難と判断されるので行なわないものとする。(3)本文2(人事措置…判決注)の〈1〉〈2〉〈4〉〈5〉の該当者は、新会社に派遣し、新会社の業務に従事させることがある。(4)本文2の〈6〉は労働協約四六条一項一号に該当する者(精神もしくは身体に故障のある者等…判決注)について、会社が同条項を援用することを妨げるものではない。(5)会社は、個別人事の苦情の扱いについて「人事発表日以降苦情処理期間一〇日間」という組合対策日程を了解し、苦情が生じた場合は誠意をもつて話し合いに応ずるものとする。(6)会社を解雇され、また、退職する者で、新会社に就労を希望する者については、一二月六日までに会社に申し出るものとする。」旨、人事措置の細目、手続について、京浜組合と合意確認した。

そこで、被告は、周辺業務に従事する者のうち、公傷病者、身替り採用者と、昭和四八年三月末定年退職となる者を除く全員に退職勧告を行ない、希望者については、グリーンサービスに斡旋する旨提示したところ、女子については原告を除く全員が退職勧告に応じて退職願を提出した(うち、相当数が新会社に採用されることを希望)が、原告は退職勧告に応じなかつたので、前記のとおり解雇の意思表示をした。

以上の事実が認められ、証人大高陽、同木原敏昭、同新井好雄、同鈴木千佳子の各証言、原告本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は採用できない。

(二)  そこで、本件解雇は、労働協約四六条一項五号にいう「工場閉鎖、業務縮小のため減員の必要が生じたとき」の解雇といえるかどうかについて検討する。

(1) 前記認定の事実関係によれば、被告が京浜製鉄所の周辺業務をグリーンサービスへ外注委託化したことにより、昭和四七年一一月二七日限りで、右製鉄所からは周辺業務がなくなつたことが認められ、特段の事情がない限り、被告の業務は縮小されたものというべきである。

しかし、原告は、グリーンサービスは形式的には被告と別会社であるが、実質的には被告の事業部と同視でき、法人格が否認されるべき関係にあるから、外注委託化は同一企業内での業務編成替え、移管にすぎず、業務縮小に該当しない旨主張するので、この点について考察する。

ところで、周辺業務がグリーンサービスに外注委託化された経緯は先に認定したとおりであるが、成立に争いのない甲第一七、三九号証、乙第八ないし一四、一七号証、証人西村元、同稲葉勉の各証言に、前記認定事実を合わせると、次の事実が認められる。

(イ) グリーンサービスは、昭和四七年一〇月五日、清掃業務(ビル・事務所・構内通路等)、衛生業務、緑化業務、文書集配業務、社内印刷業務、体育設備の整備等を目的として設立されたが、その資本金は被告が全額出資し、本店は川崎市川崎区浅野一番二号の被告会社内に所在し、役員も被告の関係役員等によつて構成されており、社名も被告(日本鋼管)の略号である「エヌ・ケー(N・K)」を冠している。

(ロ) また、前記のとおり、被告は、周辺業務を外注委託化するにあたり、京浜組合との間で「周辺業務合理化協定」を締結したが、その際、右組合が被解雇者の不安をなくするために、グリーンサービスの概要を明示することを要求したこともあつて、グリーンサービスも右協定の当事者となつた。そして、右協定においては、前記認定のとおり、「労働協約四六条一項五号により解雇された者で、新会社への就労を希望するものについては、新会社での就労が困難な者を除いて、新会社において採用する。」旨定め、グリーンサービスの労働条件についても、賃金制度、勤務制度(就業時間、休暇等)、人事制度、福利厚生制度について詳細に明記しており、更に、被告と京浜組合との間で、被告従業員の復帰訓練のためにグリーンサービスに派遣する旨の協定が締結された。そして、当初従業員のほとんど全員は被告京浜製鉄所の周辺業務に従事していた者であつた。

(ハ) ところで、グリーンサービスの設立時における事業計画の大綱は、当面、被告京浜製鉄所の周辺業務を一括して集中的に請負うことを業務内容としたが、独立企業体としての向上拡大を図るため、営業の重点を将来需要発展の期待できる緑化業務とビル管理の二点に置いて経営基盤を確立することを目指していた。他方、被告は、従来から業務の一部を外注委託化して経営効率を高める合理化施策を実施してきていたが、グリーンサービスの設立および周辺業務の外注委託化は、周辺業務従事者の雇用対策という経営的動機も存するが、ビル管理サービス・廃棄物処理等の事業が環境整備を求める社会的要請と相俟つて、将来被告企業体の枠を越えて発展する可能性が見込まれること、被告において、従来、周辺業務は付随的業務であるとしてややもすれば従業員の間でも軽視され、職場の活気も乏しくなりがちであつたため、独立の企業体でこれを主要業務として運営した方が良いと考えられること等の事情から、グリーンサービスを設立するに至つたものである。

グリーンサービスは、その後、昭和四九年一二月に資本金を当初の一、〇〇〇万円から四、〇〇〇万円に増資し、同五〇年五月に事業目的の変更をなし、同五二年には、従業員数約三八〇名、うち新規採用者(但し、主として被告の定年退職者)が約三〇〇名となり、独自の経営発展を図つており、また、グリーンサービス労働組合も結成され、グリーンサービスと独自の団体交渉を行なつている。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、グリーンサービスは、被告とは人的・物的構成において極めて密接な関係があり、被告のいわゆる関連子会社というべきであるが、独立の法人格を有し、かつ、経済的にみても独立の企業体として独自の経済活動を行なつており、これをいわゆる事業部制と同一視できないことは明らかであり、その法主体性が全く形式的であるということはできない。確かに、グリーンサービスの設立発足当初、従業員は、ほとんど全員が被告京浜製鉄所の周辺業務に従事していた者であり、業務内容も被告の周辺業務であつたため、被告の周辺業務廃止と外注委託化という合理化施策が実施されても何らの変更がないかの如き外観を呈していたが、右のように使用者が変更したにもかかわらず労働者の職務内容の変更がないという現象は、例えば、営業譲渡、個人企業の法人成り等の場合にも見られる現象であり、右事情をもつて、グリーンサービスの法的独立性を否定し、「業務縮小」に該当しないと解することは相当でない。

したがつて、被告の周辺業務のグリーンサービスへの外注委託化による業務廃止は、労働協約四六条一項五号に定める「業務縮小」に該当するとみることを妨げるものではなく、原告の主張は失当である。

なお、原告は、グリーンサービスの法人格を否認すべき旨主張するけれども、会社の法人格が全くの形骸にすぎない場合、または、それが法律の適用を回避するため濫用される場合のように、法人格を認めることがその本来の目的に照らして許されるべきでないときには法人格を否認できるものであるが、右法理は、いわば契約や法令等の解釈の尽きたところに補充的に慎重に適用されるべきであるところ、前記認定事実に照らせば、本件では右法理を適用すべき事情が存しないことが明らかである。

さらに、原告は、被告には「業務縮小」の必要性がなかつたと主張する。たしかに、労働協約四六条一項五号にいう「業務縮小」は解雇事由にかかわるものであるから、必要性の認められない業務縮小は右条項にいう「業務縮小」にあたらないと解する余地はあろう。しかしながら、本来業務を縮小するかどうかは企業主体たる使用者の経営責任においてなしうるところであるから、経営責任を負わない裁判所の第一次的な判断を企業主体の判断に代置するようなことは避けるべきであり、裁判所としては使用者が企業主体として業務縮小を必要と判断するに至つた事情として主張するところについて、果してそのような事情(事実)はあつたかどうかの他、経済目的からの業務縮小の判断について明らかに考慮すべきでないことを考慮に入れてはいないかどうか、当然考慮に入れるべきことを考慮からおとしてはいないかどうか、判断の過程に不自然なものはないかどうか等判断の仕方に不合理な点がないかどうかについて吟味し、これらの点の判断に不合理な点が認められない場合、企業主体としての使用者の業務縮小の必要性についての判断を相当とする審理の方式をとるべきものと解するのが相当である。

ところが、本件の場合、先に認定した周辺業務を廃止するに至つた経緯に照らして考えると、本件の場合被告の判断の仕方に不合理な点はなく、したがつて業務縮小が必要なくしてなされたものであるとはとうてい、いい難く、業務縮小の必要が生じたとの被告の判断は相当であるとして是認できるものである。

(2) つぎに、業務縮小のため「減員の必要が生じた」といえるかどうかについて検討する。

業務縮小のため「減員の必要が生じた」かどうかも、経営責任を負わない裁判所としては、まず企業主体としての使用者が「減員の必要が生じた」と判断した根拠として被告の主張しているところを前示(1)と同様にして事情(事実)の有無および使用者の判断の仕方について不合理な点がないかということに加えて、使用者が、それまでの労働者との雇用関係から見て、労働者の解雇を避ける措置をとるための真摯な努力をしたかどうかの点を合わせて吟味し、使用者の減員の必要についての判断に不合理な点があるかどうか、その判断の相当性について審理すべきものと解するのが相当である。

ところが、本件の場合、被告が業務廃止のため「減員の必要が生じた」と判断するに至つた経過は前記認定のとおりであつて被告の判断の仕方に不合理な点は認められず、ことに組合も減員の必要が生じたことを認めていることが明らかである点からみても、被告の「減員の必要が生じた」との判断はこれを相当なものとして是認できるものである。

そうすると、本件解雇の際、労働協約四六条一項五号にいう「業務縮小による減員の必要」が生じていたとみることができる。

(三)  (1) 労働協約四六条二項は、同条一項五号の解雇(業務縮小による解雇)につき組合との協議を要すると定めていることは前示のとおり当事者間に争いがないが、前記認定の事実関係によれば、被告が組合(連合会および京浜組合)と協議を尽したことは明らかである。

(2) また、業務縮小により減員の必要が生じた場合における被解雇者の選定についても合理性が要求されると解すべきことは当然であるが、前記認定の事実関係によれば被告の原告に対する本件解雇は、「周辺業務合理化協定」に定める基準に従つてなされたものであるから、特別の事情のない限り、選定の合理性は肯定されるというべきである(なお、この点については、後記(四)参照)。

(四)  しかし、原告は、次のような諸点からも、本件解雇は解雇権の濫用または信義誠実義務、公序良俗違反として無効であると主張しているので、順次検討する。

(1) 原告は、被告とグリーンサービスとは形式的には別会社であるが実質的に同一会社と評価すべき程度まで密接な関連を有するところ、労働条件の低いグリーンサービスへの「移籍」を拒んだ原告を解雇したものであるから、本件解雇は無効である旨主張する。

しかし、本件解雇は前記のとおり業務縮小による解雇であり、グリーンサービスへの「移籍」の勧告ないし命令を拒んだから解雇したとは認められないから、原告の主張は、その前提において失当である。

(2) また、原告は、本件解雇は、原告が女性であることを理由とする差別に基づくものであり無効であると主張する。

被告は、連合会との間で締結した「扇島建設合理化協定」を受けて、京浜組合との間で「周辺業務合理化協定」を締結し、右協定において、周辺業務縮小に伴なう人事措置として、公傷病者、身替り採用者、通常業務転活用可能な者、復帰訓練中の者、昭和四八年三月末定年退職者を除き、労働協約四六条一項五号により解雇することを合意確認し、更に、その付帯覚書の中で、通常業務への転活用について、「女子作業員の通常業務への転活用については、女子に恒常的に適合する職場を確保することが、交替勤務・有害業務等労働基準法の女子従業員保護のための規定に抵触することの多い鉄鋼業の作業実態と扇島に向けての職場異動の必然化する京浜製鉄所の整員事情等から困難と判断されるので行なわないものとする。」旨合意確認し、右協定およびその付帯覚書における合意に基づき、原告を周辺業務廃止に伴なう人事措置における解雇対象除外者に該当しないとして、労働協約四六条一項五号により解雇したものであることは、前認定の事実関係から明らかである。

ところで、「周辺業務合理化協定」(付帯覚書も含む)は、周辺業務廃止に伴なう人事措置、とりわけ解雇基準・解雇に際しての特別措置等を主な内容としているから、右協定の解雇に関する部分は、労働組合法一六条にいう「労働条件その他労働者の待遇に関する」労働協約として、いわゆる規範的効力を有するものと解するのが相当である。

もつとも、右協定の中で定める解雇に関する合意の内容が著しく不合理であつて公序良俗に反すると判断される場合には、その効力が否定されることがあるのは言うまでもないところ、原告は、前記協定中の女子の通常業務への転活用に関する規定は、女子を差別するものである旨主張するけれども、右規定は、周辺業務に従事する女子作業員の通常業務への転活用が、業務内容に照らし困難であるので、女子作業員の転活用を図らないことを合意確認したものであり、単に「女子であること」を理由としているものではない。更に、前記認定のとおり、被告は、周辺業務に従事している女子作業員の通常業務への転活用が可能か否かについて、検討を加え、その結果転活用困難と判断したものであるし、京浜組合も右の点を認識したうえで合意確認したものである。

したがつて、被告が前記協定に従つて原告を解雇したことが、原告が女性であることを理由とする差別取扱いとして憲法一四条の趣旨や労基法三条、四条の趣旨に反するとはいえず、公序良俗・信義誠実義務違反ないし解雇権の濫用ともいえないことは明らかである。

(3) 原告は、永年勤続者である原告に対する本件解雇が、公序良俗に反して無効である旨主張する。

しかし、当該労働者に労働協約に定める解雇事由の存する場合に、右労働者が永年勤続者であることのゆえに、解雇が公序良俗に反すると言えないことは言うまでもなく、原告の主張は失当である。

3  そうすると、原告に対する本件解雇の意思表示はその効力を生じたとみるべきであり、昭和四七年一二月六日限り、本件労働契約は終了し、原告は、被告の従業員たる地位を喪失したといわなければならない。

四  賃金等の未払分の有無

抗弁2の事実は当事者間に争いがなく、右事実によれば、被告が原告に対して本件解雇に至るまでに支払うべき賃金等は支払ずみであるといわなければならない。

五  むすび

よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小笠原昭夫 日浦人司 小池裕)

別表第一~三〈省略〉

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